第9回 胃癌の体系から眺めた診断

 

胃の勉強をする機会がありました。当時の内容ではありますが、その記録を残しておこうと思います。意外にもかなりボリュームがあるので数回にわけて掲載します。カテゴリの「胃」を参照して下さい。


目次


 

 

はじめに

胃癌 X 線診断の求め方には多数の胃癌個々の X 線画像について記憶し、肉眼所見を基軸に X 線所見や組織所見の相互比較を行なうことで、相互関係を知ることができ、より精緻な読影を行なうことができる。

しかし、これはあくまでも胃癌個々についてであり、胃癌個々の間あるいは胃癌全体との関係とは無関係に行なわれているところに問題がある。


胃癌に関する知見、生物学的なふるまい、そして概念など、個々のことを何かをもって関係づけて体系化するためには、細胞ならびに組織水準での胃癌発生を基礎とする必要があるとし、胃癌臨床診断の基本的な概念として 、中村恭一氏は"胃癌の三角"を提唱している。

 

胃癌の三角

胃癌の三角とは、癌発生の"場""組織型""肉眼型"の 3 つの要素が作る関係を指す。

これら 3 つの要素は互いに密接な関係にあり、それぞれを頂点に三角形を形成していることからその名称が付けられている。

胃癌臨床診断の概念は、組織水準における微小癌、極微小癌の組織発生を基盤に胃癌にまつわる諸事象を関連づけた胃癌の体系化から生まれた概念である。したがって、ここで言う胃癌の体系的診断法とは、胃癌の X 線診断を"胃癌の三角"を通して眺めることを指す。

 

中村恭一氏による"胃癌の三角"からみた胃癌臨床診断


胃癌臨床診断における"胃癌の三角"の意義について、次のように述べている。
診断の過程においては、


1) 胃癌の診断は X 線、内視鏡、生検組織の病理組織検査でなされており、日常診療においては常 に診断に適している資料が得られるとは限らない。生検組織採取が適切であるとは限らず、判読できない場合や判読に迷う場合には、胃癌の角の観点から病変を再検討することによって、判読の結果をある程度修正することができる。


2)1 つの検査によって得られた良質の資料による診断を基準として、他の良質でない資料の所見を胃癌の三角を通して補い、より確かな診断へ導くことができる。資料の所見から得られた診断と胃癌の三角からみた診断との間に矛盾が生じた場合は、病変をよりよく描出すべき所見に焦点を合わせて再検査することができる。これらのことから胃癌の三角は胃癌臨床診断のいわば安全装置(fail-safe system)の役割を果たすと述べている。

癌発生の [場] から見た胃癌の三角

"腸上皮化生のない胃底腺粘膜を限界づける線"を F 境界線、"胃底腺粘膜が巣状に出現する領域を限界づける線"を f 境界線と定義する。

十二指腸側の F 境界線は幽門腺粘膜と胃底腺粘膜の境界線、口側の F 境界線は胃底腺粘膜と噴門線粘膜の境界線である。これが胃本来の粘膜状態である。

このような胃固有の粘膜には.

腸上皮化生が発生する。腸上皮化生の発生様式は、一般に、はじめは小彎側の幽門腺粘膜、ついで、噴門腺粘膜に腸上皮化生腺管が巣状に発生する。
腸上皮化生巣は幽門前庭部・噴門部で増加し、やがて小彎側から前後壁にある胃底腺粘膜にも発生するようになる。


腸上皮化生の程度は加齢とともに著明となっていく傾向がある。

腸上皮化生巣が胃全体の粘膜に波及するようになると、胃体部は腸上皮化生粘膜の中に巣状に散在する胃底腺粘膜といった状態になる。
一般に、F 境界腺は加齢とともに腸上皮化生によって胃上部大彎側へ移動する 。

 

F 境界線の肉眼的同定

粘膜ヒダを指標にすることで、おおよその F 境界線の位置を知ることができる。

切除胃における F 境界線は粘膜ヒダが消失するところを結んだ線と一致する。胃粘膜の萎縮は、F 境界線の型から通常型と萎縮型に分けられる。

 

 

X 線的な F 境界線の同定

適当な空気量で撮影された二重造影像で描出された粘膜ヒダを指標に行う。
すなわち、写し出された粘膜ヒダの途切れた端を結んだ線が X 線な F 境界線に相当する。

二重造影像の粘膜ヒダを指標とした F 境界線の推定は、粘膜ヒダの現れ方が空気量によって変化するところに問題がある。
この問題を解決するには、二重造影像における粘膜の模様すなわち胃小区像と合わせて判読する必要があろう。

萎縮が軽度な胃底腺粘膜の胃小区像は大型で多角形、幽門腺粘膜は類円形であり、粘膜萎縮と共に円形化・小型化し、顆粒間の胃小区間溝も拡大する傾向が認められる。また、粘膜萎縮の程度と腸上皮化生の程度は相関する。

 

 

 

 

 

-

© 2024 いっかくじゅうネット Powered by AFFINGER5